水戸光圀 イラストポートレート

江戸時代編.23

シリーズ:将軍家を支えた血脈 ~御三家、産声を上げる~ 第4回

水戸光圀

Mito Mitsukuni

学問と歴史編纂で幕府を照らす

1628–1701 | 出生地:茨城県 | 政治の部屋

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彼らが命を懸けて守ろうとした「日本」

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「学問と歴史編纂で幕府を照らす」水戸光圀の物語

どのような時代を生きたのか

水戸光圀が生きた十七世紀は、徳川幕府の支配体制が、三代・家光から四代・家綱、五代・綱吉へと引き継がれ、戦乱の記憶が薄れ、泰平の世が本格的に定着していく時代でした。光圀は1628年、水戸藩初代藩主・徳川頼房↗の三男として生まれます。
出生をめぐっては、当初その存在が公に届け出られていなかったなど、複雑な経緯があったと伝えられていますが、詳細については史料によって説明が異なる部分もあります。

本来であれば、兄・頼重が世子となるはずでしたが、頼房の意向により、光圀が水戸藩の世子として立てられることになりました。1661年、父・頼房が没すると、光圀は水戸藩二代藩主の座を継ぎます。

若き日の光圀は、儒学、とりわけ中国の史書に強い関心を寄せ、やがてその学問への情熱は、藩主となった後も、生涯を通じて水戸藩の性格を、大きく方向づけていくことになるのです。

この人物が放った「産声」とは

光圀が上げた産声、それは、「将軍家一門として、学問と歴史編纂によって時代に規範を示す」という産声でした。

尾張の義直が武と学の両面で、紀伊の頼宣が武備で、そして父・頼房が藩政の基盤固めによって、それぞれ将軍家を支えたのに対し、光圀が選んだ道は、これらとは大きく異なるものでした。1657年、光圀はまだ藩主となる前の若い頃から、『大日本史』の編纂事業に着手します。これは日本の歴史を、儒学的な大義名分論に基づいて体系的にまとめようとする、壮大な事業でした。編纂のための機関として、後に「彰考館」と呼ばれる史局が設けられ、光圀は多くの学者を招き、史料の収集や編纂作業に、生涯にわたって力を注いでいくことになります。

武力や藩政の実務ではなく、学問と歴史編纂という形で、将軍家一門としての存在感を示す。

光圀が上げたこの産声は、やがて水戸藩を、「学問の藩」として、広く知らしめていくことになるのです。

この人物が示した「支え方」とは

光圀が示した支え方とは、「儒学の理念に基づいた統治と、後世に残る歴史書の編纂を通じて、時代に規範を示すこと」でした。

光圀は明からの亡命儒学者・朱舜水を招き、その教えを受けながら、儒学的な理念に基づく藩政の刷新を進めました。殉死の風習を禁じるなど、儒学の考えに沿った施策を、藩内で実行に移したとも伝えられています。また光圀は、自らに実子がありながら、兄・頼重の子である綱條を、水戸藩の後継として迎えることを決めました。これは、本来家督を継ぐ立場にあった兄、頼重の系統を重んじた判断であり、儒学的な名分を重視した光圀らしい選択であったとも考えられています。

その手厚い保護のもとで進められた『大日本史』は、光圀の存命中には完成に至らず、その編纂事業は、水戸藩において光圀の死後も、長く引き継がれていくことになりました。
なお、後世に広く知られる「水戸黄門」として、諸国を漫遊し、悪を懲らしめるという物語は、江戸時代後期以降に成立した創作です。史実の光圀には領内巡察や寺社参詣の記録は残るものの、 物語のように全国を漫遊し、 悪を懲らしめた事実は確認されていません。

権力による統治だけでなく、学問と規範によって、時代のあり方を示し続ける。それこそが、光圀が貫いた、知による支え方だったのです。

その生涯は何を残したのか

1701年、水戸光圀は七十三歳でその生涯を閉じました。

光圀が着手した『大日本史』の編纂事業は、水戸藩の歴代藩主に受け継がれ、明治時代に至ってようやく完成を見ることになります。この編纂事業を通じて育まれた学風は、後に「水戸学」と呼ばれる学問として発展し、幕末の思想にも、大きな影響を及ぼしていくことになりました。光圀の生涯が残したもの、それは武力や石高の大きさによってではなく、学問と歴史編纂という、形のない知の力によって、将軍家一門としての存在感を示したことにあります。尾張・紀伊が武と藩政によって御三家の役割を担ったのに対し、水戸は光圀の代において、学問という独自の柱を打ち立てました。

水戸光圀の生涯は、そのことを私たちに静かに教えてくれます。

まさに「学問と歴史編纂で幕府を照らす」という、副題にふさわしい人生でした。

シリーズ「将軍家を支えた血脈 〜御三家、産声を上げる〜」が語ったもの

全四回にわたってお届けしてきたシリーズ、「将軍家を支えた血脈 〜御三家、産声を上げる〜」。

尾張の徳川義直↗は、東海道の要衝に、将軍家の権威を確立する産声を上げました。
紀伊の徳川頼宣↗は、南海の要衝に、徳川の備えを築き上げる産声を上げました。
水戸の徳川頼房↗は、江戸に最も近い地に、徳川の未来を託す産声を上げました。
そして水戸光圀は、学問と歴史編纂によって、時代を知の面から支え続けました。
同じ徳川の血を引きながら、その支え方は、武、藩政、そして学問と、それぞれ異なるものでした。

しかし彼らに共通していたのは、「将軍になる」ことではなく、「将軍家を支える」という役割を、自らの立場で全うしようとしたことでした。御三家という備えは、家康が一代で作り上げたものではなく、それぞれの地で産声を上げた子や孫たちが、代を重ねながら、実質を積み上げていったものでした。その礎があったからこそ、徳川の世は、二百年以上にわたる泰平を、保ち続けることができたのです。

Coming Next

明日からは、新シリーズ

全四回にわたってお届けしてきました、「将軍家を支えた血脈 〜御三家、産声を上げる〜」。

御三家という血脈の備えを見てきましたが、その泰平の世そのものを、一代ごとに築き上げていったのは、歴代の将軍たち自身でした。戦乱を鎮め、制度を固め、商いや文化を熟成させ、時代に応じてその政の色を変えていく。将軍という頂点に立った者たちは、それぞれの時代に何と向き合い、何を築き上げたのか。

明日から始まる新シリーズは、「幕府を築いた将軍たち」。
明日の第1回は、「戦国を鎮め幕府を切り開く」徳川家康の物語に迫ります。

シューちゃん

今回のシリーズ「将軍家を支えた血脈 ~御三家、産声を上げる~」って!?

Series

将軍家を支えた血脈御三家、産声を上げる

天下泰平の設計図、御三家という備え

関ヶ原に勝ち、大坂の陣で豊臣 を滅ぼし、徳川家康は天下をその手に収めました。

しかし、家康が見据えていたのは、単なる戦乱の終結だけではありません。将軍家の血筋を絶やさず、徳川の世を長く揺るぎないものとすることでした。

そのため家康は、自らの子どもたちを尾張・紀州・水戸という要の地へ配しました。

将軍家に万一のことがあれば、この家々から後継を迎える。後に「御三家」と呼ばれることになるこれらの家は、徳川政権の揺らぐことのない柱となっていきます。

本シリーズが描くのは、天下人の血を引きながら、将軍家を支える役割を担った四人の物語です。

「継ぐ者」ではなく「支える者」の系譜

御三家は、将軍家の分家であり、同時に幕府体制を支える最も有力な一門でもありました。

尾張の義直は、東海道の要衝にあって、将軍家の権威を天下に強く示しました。

紀州の頼宣は、西国への備えとして紀伊の地に根を張り、南海の要衝を固めました。

水戸の頼房は、江戸に近い東国の要地で藩政の基盤を整え、内に向けた備えの礎を築きます。

そして頼房の子、水戸光圀は、剣より筆を取り、学問と歴史編纂によって徳川の世を知の面から支えました。

なお、光圀に冠される「副将軍」という呼称は、正式な幕府の役職ではなく、後世の講談・創作によって広まったと考えられています。

本シリーズが伝えたいのは、「将軍になる」ことだけが、徳川の血を引く者の役割ではなかったという視点です。

継ぐことも、支えることもまた、血脈が果たした重要な使命でした。

その産声とは

大きな組織や体制が長く続くためには、トップ一人の才覚だけでは足りません。

将来の予期せぬ危機に備えた継承の仕組みを、あらかじめ整えておくこと。

のちに「御三家」と呼ばれるこの制度や言葉も、最初から存在したわけではなく、二代・秀忠、三代・家光の世を経て、徳川政権が泰平を目指す中で形成された重要な「備え」でした。

尾張、紀州、水戸。それぞれの地で産声を上げた血脈は、軍事・治政・学問と、異なる役割を果たしながら将軍家を支えていきます。

肩書きや家格の華やかさだけでなく、彼らがどのようにして藩の基盤を固め、徳川の世を揺るぎないものにしていったのか。

御三家の礎を築き、その歴史を創り上げた四人の物語に迫ります。

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